『毛皮を着たヴィーナス』

毛皮を着たヴィーナス (河出文庫)

毛皮を着たヴィーナス (河出文庫)


マゾヒズムの語源ともなった、
マゾッホの代表作。


正直、1回読んで理解やら共感やらできるものではない。
人間の奥底をえぐり出して、
混沌としたものを突きつけられ、
深くどろりとした不快な気分にさせられる。


類をみないという意味で、面白い。
理解できないと思えばそれまでだけれど、
何かを理解しようとしたら、この深淵な世界の入り口で立ちすくんでしまう。


人を愛する。
その狂気的な愛は、好きな人の奴隷になることを望んだ。
鞭で打たれ、愛する人から酷い仕打ちを受けるたびに、
愛の深みにはまっていく。
自分以上に彼女を愛せる人はいない。
その正しくも歪んだ形の結末については、もう一度読んでみないと、
どう考えても理解出来ない。


自分の人間観とは、だいぶかけはなれているからでもある。


“「でもねえ、あなた、女にそんなことができるのは滅多にないことなのよ。男のように天衣無縫に官能的になることも、精神の自由に与かることも、女にはできないの。女の愛はいつも官能性と精神性がごちゃまぜになった状態なの。女心というものは男をいつまでも鎖に縛りつけておこうとしながら、それでいてご本人は秋の空のようにくるくる変わるもの。ですから女のやることなすこと、女という存在には、本人はそのつもりがないのにという場合がすくなくないのだけれど、分裂が、嘘や欺瞞が生じて、当人の性格が不具にされてしまうのだわ」”