『卒業』

卒業 (講談社文庫)

卒業 (講談社文庫)


加賀恭一郎、最初の事件。
彼にとって、苦いものになったに違いない。


大学卒業間近、親友の一人が死んだ。
自殺か、他殺か。
自殺する動機も、殺害される動機もまったくわからない。


ヒントや伏線は、これでもかというくらいに出てくる。
ぼんやりとこんな感じだろうと描いていくものの、
最後には自分の予想と、ちょっとずつずれた真相が明らかにされ、
楽しめた。


動機や真実が、いかにわかりにくいものか。


“そして何か覚悟を決めたように息を吐いた後、
「果たして俺たちは、他の者のことをどれだけ知っているんだろう?」
と呟いた。「本当は何も知らないんじゃないか?」
彼が言いたいことの真意を掴めず沙都子は黙っていた。彼は続けた。
「波香は自殺かもしれない。いや、今のところはその可能性が強いというべきかもしれないな。しかし俺たちはその動機について何ひとつ手掛かりを持ってはいない。親友だったはずなのに、実際は波香のことを何も知らなかったんだ。祥子の時もそうだった。そんな俺たちが、たとえば藤堂や華江のことをどれだけ知り尽くしていると言えるのだろう?」”