『スコーレNo.4』

スコーレNo.4 (光文社文庫)

スコーレNo.4 (光文社文庫)


面白いなんてもんじゃない。
琴線に触れるとは、まさにこういう小説のことをいうのだ、
と思った。


珠玉の作品で、
今年読んだ中では、群を抜いて、いい。


妹と比べて自分は平凡だと思っている主人公が、
中学、高校、大学、就職を通して4つのスコーレと出会い、
少女から女性へと変わっていく物語。


作者の表現をちょっと借りれば、
思い出すのももったいないくらいの読後感。
ときどき、ちょっと思い出しては、くすくすしてしまいそうだから、
怖いわ。


きらきらとした透明感と、
爽やかさと、
表現の美しさと、
季節感。


骨董品や最新のものも、
美しさと清々しさのなかに綺麗に同居させており、
筆力に驚かざるをえない。
気持がいいのだ。
きわめて文学的であり、科学的であり、芸術的であり、人間的である。


就職してからの物語は、特に好き。
何気ない日常と、仕事へ向き合う姿勢と、結婚という
女性の複雑な思いを、
丁寧に描ききり、
物語すべてを流れる時間軸をとおして、きれいに昇華させている。


余談だけれど、
この爽やかさとうれしさの影響で、
帰り道、『時をかける少女』と『サマーウォーズ』のDVDを借りてきた。


こころを大いに脱線させたくなったのだ。


“雨除けになっているトタン屋根から自転車を押して出て、サドルに跨ったときに突然、蝉の声が束になって降ってきた。わ、しゃわー、と声が落ちてくる。蝉がしゃわーと鳴いた、それだけのことに私はうろたえている。蝉の声を初めて聞いたような気持ちになってしまったから。新しい、鮮やかな場所へ突然踏み出してしまった戸惑いで、誰も見ていないのに顔をあげることができない。コンクリートが焼けている。自転車のタイヤが軋む。棕櫚の葉が太陽を映して光り、眼に突き刺さるみたいだ。”