『思考の補助線』

思考の補助線 (ちくま新書)

思考の補助線 (ちくま新書)


複雑な問題を解決するとき、
いままで見えていなかった場所に、
一本のきれいな補助線を引けたら。


そう、エレガントに補助線を引けたら、
どんなに素晴らしいだろう。
どんなに楽しいだろう。


専門分化したこの世界では、
もう、世界全体の問題を引き受けるということはできなくなった。
1人の人がすべての分野の知をもつなどということはありえない。


昔は、ゲーテダヴィンチといった各分野に通じる知識人がいたし、
学生も「俺は今、大論文を書いている」と嘯く楽しさがあった。
いま、その気概をもつ人さえいないのではないか?


個性が他者との関係性のなかで生きるように、
知もまた、全体性のなかで生きる。


専門分化した科学の世界だけでなく、
不確実性もはらんだ美の世界、文学も芸術も心も宗教も含めた
全体性を引き受ける気概はあるか。


いままで見えていなかった世界に、
一本のエレガントな補助線が引けたら、
と思う。


“一見関係がないと思われるものたちの間に「補助線」を引き、その生き様において自分自身が「補助線」と化して、断片化してしまった知のさまざまの間を結ぶ。そのような、世界の統一性を取り戻す精神運動には、途方にくれるようなエネルギーが必要とされる。”