『沈まぬ太陽(四)』

沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上) (新潮文庫)

沈まぬ太陽〈4〉会長室篇(上) (新潮文庫)


会社の再建に、新しい会長を迎えた。
首相の要請により就任した国見会長のもと、
これまで闇に葬り去られていた腐敗した実態が浮かび上がってくる。


恩地は会長室の配属になり、
これまで自分を虐げてきた者たちと対峙することになる。
まだ、解決までの道のりは、遠い。


“遂に、六時五十六分ー、遺族たちは手を合わせて、黙祷した。長い重い黙祷であった。こらえきれぬように咽び泣く声がした。
「あなた!子供たちを連れて来ましたよ、見てやって!」
「パパ、帰って来て、もう一度ごはん食べようよ!」
星が輝きはじめた空に向って、幼い声が続いた。
「おやじ、迎えに来た!背負って帰ってやるよ」
「まさお、みちこ、父さんと母さんが来ているぞ!一緒に帰ろう!」
妻、子供、父、母は、声を限りに叫び、その声は深い闇の中に吸い込まれていった。
この声、この叫びを忘れてはならない。今なお航空会社の使命を忘れ、贖罪の意識の欠片もない社内の魑魅魍魎の輩を、こままはびこらせてはならない。会長室に対する反撥は、さらに強まるだろうが、屈してはならないと、恩地は心に誓った。”